この花は 白つつじ
春の空気が少しだけ湿り気を残したまま、私は白いつつじの前で足を止めました。
光を受けて透ける花びらは、まるで小さなウェディングドレスのように清らかで、胸の奥がそっと静まっていきます。
この花は 白つつじ。
学名は Rhododendron schlippenbachii、ツツジ科に属する東アジア原産の花です。
開花は 四月から五月。
桜が散ったあと、まるでバトンを受け取るように街や山を明るく照らしてくれます。
白つつじは、葉が先に出たり、花と同時に開いたりする少し不思議なリズムを持っています。
花の内側に見える 緑色の小さな斑点は 蜜腺で、控えめなのにどこか印象的。
その可憐な姿とは裏腹に、ツツジ類には毒があるため、昔から「食べてはいけない花」として知られてきました。
花言葉は 「愛の喜び」、そして 「繁栄」。
白い品種は特に 「純粋で清らかな愛」 を象徴すると言われています。
群れ咲く姿が、家族や暮らしの豊かさを願う象徴として親しまれてきたのも、どこか納得できる気がします。
古い物語の中でも、つつじは人の心に寄り添ってきました。
崖の上に咲いた花を求めた貴婦人のために、ひとりの老人が命をかけて花を摘み、歌を捧げたという伝承。
その情景を思い浮かべると、白いつつじの静かな強さが、より深く胸に響いてきます。
風がそっと吹き抜けると、花びらがかすかに揺れ、淡い香りが漂いました。
その香りは、過ぎていった季節の記憶や、誰かと交わした小さな約束をそっと呼び起こすようで、私は思わず目を閉じてしまいます。
白いつつじは、派手に主張する花ではありません。
でも、そこにあるだけで景色を明るくし、心をやわらかくしてくれる。
その控えめな存在感が、今日の私にはとても愛おしく感じられました。
どうか、この短い時間があなたの心にも小さな光を残しますように。
春の風の中で揺れる白いつつじが、そっと語りかけるように。







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