ひと目で心を奪った彼・李羲承
ひと目で心を奪った彼・李羲承
夫に内緒で、またあのバーに足を踏み入れた。
胸の鼓動が喉までせり上がる。
ただ一週間前に一度だけ手を繋いだ、あのホストにもう一度会いたくて。
まるで16、17歳の少女みたいにドキドキしながら、こっそり彼を探してしまう。
一週間前、夫と喧嘩した勢いで、友達に誘われて彼女の新しいバーのオープニングに行った。
「前の店とそんなに変わらないな」と心の中で思っていたら、彼女がニヤッと笑いながら、大きな酒棚の裏の隠し扉を開けた。
若い男の子たちの視線が一斉にこちらに向く。私はその場に固まってしまった。
「旦那さんにはバレないから」
その言葉と同時に、ソファにいたイケメンたちが立ち上がって、一列に並んだ。
友達に背中を押され、下を向いたまま少しずつ前に進む。目の前に靴先が見えた 瞬間、私の手が取られた。
驚いて顔を上げると、笑った目、高い鼻梁、少し上がった薄い唇、そして目を疑うほどの美しい顔。
「こんにちは、李羲承(イ・ヒスン)です」
昔は「人と人の縁は数秒の視線で決まる」なんて馬鹿にしていたけれど、今は信じざるを得ない。
家に帰って、いつもの生活に戻っても、彼の顔が頭から離れない。
デスクでキーボードを打ちながら、「ヒスンも昼間は私みたいに会社員してるのかな」と思ったり、
キッチンで料理しながら「一人暮らしかな? 自分で料理作るのかな? どんな味なんだろう、食べてみたいな」と考えたり。
夫の隣で眠れぬ夜、「今ヒスンは何してるんだろう。別の女の子を抱いてるのかな」と想像してしまう。
薄い唇の男は薄情っていうけど、彼の腕はきっと温かい。寝顔はきっと月みたいにきれいなんだろうな。
李羲承、李羲承……。
「彼は毎日いるわけじゃないから、運が必要よ」
友達がまた扉を開ける前にそう囁いた。
バーカウンターで氷を指先で弄んでいるヒスンを見つけたとき、やっぱり縁があるんだと思った。
ヒスンも私に気づいて、もっときれいに笑ってくれた。183cmの彼が近づいてきて、私が見上げる形になる。
「やっと来たね」
その優しい声に、心が溶けそうになる。
「私がまた来るって、どうしてわかったの?」
「だって君、俺のこと好きでしょ?」
別の男に言われたら、きっと鼻で笑っていた。
でも彼は李羲承。
この一週間ずっと頭から離れなかった彼。
あの危うい瞳に見つめられると、自分の感情が全部見透かされている気がし た。
真っ白なベッドの上、残っているのは二人の呼吸音だけ。
距離がゼロになる直前、私は迷いながらもつい口にしてしまった。
「私、既婚者なの知ってるよね」
言った瞬間に後悔した。ホストに会いに来ておいて、何を清楚ぶっているのか。
ヒスンは私の髪を耳にかけ、笑いながらこう言った。
「じゃあ、俺のことちゃんと隠してね」
シャツのボタンを外しながら、「これからもこうやって会うんだから」と付け加えた。
※フィクションとして楽しんでください。 この話を書いていて一番強く残ったのは、「恋に落ちる瞬間って、案外ドラマみたいに派手じゃない」ってこと。暗い店内で、氷の音とグラスの気配、黒いジャケットに白いシャツの彼が、スプーンでデザートを口に運ぶ横顔。たったそれだけで心が持っていかれるのって、怖いくらいリアルでした。 私の場合、“隠し扉”があるバーという非日常が、気持ちのブレーキを外してしまった気がします。現実の生活では、役割(妻、母、会社員…)が先に立つのに、あの空間では「名前のない私」に戻れる。だからこそ、たった一度手を繋いだだけでも、記憶がやけに鮮明に残りました。 検索で見かけるような作品(たとえば「エスケープ・ルーム~無知な彼女は今日も買われる~」みたいに、閉じた空間で関係が進む系)に惹かれる人って、きっと“逃げ場”を探しているんだと思います。現実からの脱出ボタンが欲しい夜、扉の向こうに「別の人生」があるように感じてしまう。でも、そこには甘さだけじゃなく、息苦しさや罪悪感もセットでついてくる。 あと、「娘のすきぴに恋焦ガレ」みたいな背徳系・禁断系のドキドキって、刺激が強い分、読後に妙な寂しさが残りませんか?私は残りました。だからこの手の物語を読む(書く)ときは、“ときめき”と同時に「自分は何に飢えてたんだろう」って気持ちも一緒に見つめたくなります。 もし同じタイプの話が好きなら、楽しみ方のコツは2つ。 1つ目は、細部の描写を拾うこと。例えば「グラス」「スプーン」「デザート」「赤い文字みたいに目を引くサイン」「YOITOKIのロゴ」みたいな小物が、現実味を底上げして没入感を作ります。 2つ目は、境界線を“自分で”引くこと。現実で真似するかどうかは別として、物語の中では危うさを味わっていい。ただ読み終えた後に、生活へ戻るためのスイッチ(温かい飲み物、好きな音楽、短い散歩)を用意しておくと、余韻に飲まれにくいです。 私にとって彼は、現実の誰かというより「一瞬で心を奪う象徴」でした。だからこそ、扉の向こうの甘い言葉より、扉のこちら側でちゃんと息をすることも忘れないでいたい。そんな気持ちで、この続きをまた書くかもしれません。
