『建築士のバトン』倒産の影
「会社が倒産した日、私は現場で泣いた」建築士のバトン
建築の仕事をしていると、いろいろな出来事があります。
嬉しいこともあれば、どうしても忘れられない出来事もあります。
私にとって、その一つが「会社の倒産」です。
私は建築の世界で長く仕事をしてきました。
若い頃は大工として現場に入り、その後設計の道に進み、一級建築士の資格を取得しました。
そして33歳のとき、思い切って会社を起業しました。
建築の仕事が好きでした。
現場が好きでした。
図面が建物になっていく瞬間が好きでした。
会社は順調な時期もありました。
多くの現場を経験し、たくさんの人と仕事をしてきました。
しかし経営というものは、決して簡単ではありません。
建築の世界は景気の影響を受けやすく、仕事の波も大きい業界です。
どれだけ努力していても、状況が大きく変わることがあります。
そしてあるとき、会社は倒産という現実に直面しました。
そのとき私がいたのは、現場でした。
建物はまだ完成していません。
職人さんたちは仕事を続けています。
協力会社の人たちも現場に来ています。
その光景を見たとき、胸が締めつけられるような思いになりました。
「申し訳ない」
その言葉しか出てきませんでした。
会社が倒産するということは、単に会社がなくなるということではありません。
そこに関わっていた多くの人たちに影響が出ます。
現場の職人。
協力会社。
取引先。
そして何より、その建物を完成させようとしていた人たちです。
私はそのとき、現場で涙が出ました。
建築という仕事は、多くの人の努力で成り立っています。
一つの建物が完成するまでには、本当に多くの人が関わっています。
設計者だけではありません。
現場の職人、設備業者、電気業者、さまざまな人の技術が集まって建物は完成します。
その現場を守ることができなかった悔しさは、今でも忘れることができません。
それでも私は、建築の仕事を続けました。
建築という仕事は、簡単にやめられる仕事ではありません。
図面を描く。
現場を見る。
建物が完成する。
その過程には、技術者としての誇りがあります。
そして私は思いました。
「もう一度、建築を学び直そう」
そうして挑戦したのが、設備設計一級建築士という資格でした。
60歳で新しい資格に挑戦することは、決して簡単ではありませんでした。
それでも、もう一度学び直すことで、建築という仕事を違う角度から見ることができました。
そしてその経験をもとに書き始めたのが
「建築士のバトン」というシリーズです。
建築の世界で働く技術者たちの挑戦や葛藤、そして成長を物語として書いています。
このシリーズは、本編・スピンオフ・新章を合わせて24冊になりました。
現在、『建築士のバトン 新章第5巻 設備設計一級建築士への道』を執筆中です。
建築設備の世界や、資格への挑戦を物語形式で描いています。
建築という仕事には、正解がありません。
それでも誰かが判断し、前に進まなければならない瞬間があります。
そうした技術者たちの思いを、次の世代へ渡していくこと。
それが「建築士のバトン」というタイトルに込めた願いです。
建築の世界は専門性が高く、多くの職人や技術者が協力し合わなければ一つの建物が完成しません。特に会社が倒産するという事態は、単なる企業の終焉にとどまらず、関わる人々の生活や信頼にも大きな影響を及ぼします。 私自身も建築の現場を経験してきましたが、仕事の波が激しいこの業界では景気変動による経営リスクを常に感じてきました。私が見た倒産の影響は、単に仕事がなくなるだけでなく、それまで積み上げた信頼関係や技術継承が途絶えてしまうことにほかなりません。 特に、倒産が現場で発生すると職人や協力会社が突然仕事を失い、予定していた建物の完成に支障が出ることがあります。そうした現実を見ると、経営者としての責任の重さとともに、技術者として建築に携わる者の使命感を改めて感じます。 この経験から再起を図り、60歳で設備設計一級建築士の資格に挑戦し直すことで、建築をより広い視点から捉え直せました。資格取得は簡単ではありませんでしたが、新たな知識や技術の習得は、自分の成長だけでなく、次世代の技術者へ技術と心を繋ぐ「バトン」を渡す意義にもなりました。 『建築士のバトン』シリーズは、こうしたリアルな葛藤や挑戦を通して、建築に関わる人々の心情や成長を丁寧に描いています。建築の仕事に正解はありませんが、そこで働く人々の努力と誇りは確かに存在します。 倒産という厳しい現実を経験しながらも、技術者として歩み続ける姿は、多くの建築関係者にとって共感と勇気の源になるでしょう。建築の仕事を志す方や、業界の裏側を知りたい方にとっても大変貴重な内容です。
