あの日にかえりたい【荒井由実】
『あの日に帰りたい』って、メロディのやさしさとは裏腹に、歌詞をちゃんと追うほど胸がきゅっとする曲だと思います。私が改めて歌詞の意味を考えたとき、中心にあるのは「過去に戻る」ことそのものというより、“戻れないことを分かっているのに戻りたくなる瞬間”の感情でした。 まず印象的なのが「暮れかかる都会の空」。昼と夜の境目って、気持ちがほどけて記憶が浮かびやすい時間帯で、仕事帰りや用事の帰り道にふと昔を思い出す、あの感じに近いです。都会の空は広いのに、どこか無機質で、過去の温度だけが取り残されているようにも見えます。 「思い出はさすらってゆくの」というフレーズも、記憶が自分の意思で整理できないことを言い当てている気がします。忘れたつもりでも、匂いとか風とか、ちょっとしたきっかけで勝手に流れ込んでくる。だから“さすらう”なんですよね。思い出が居場所を探すみたいに、心の中を動き回ってしまう。 そして私が一番好きなのが「光る風 草の波間を駆けぬける 私が見える」「青春の後ろ姿を」。ここは、青春を真正面から美化するのではなく、“去っていく背中”として描いているのが切ないです。青春はその最中にいると気づきにくくて、後から振り返ったときに初めて輪郭が出る。だから“後ろ姿”。 「人はみな 忘れてしまう あの頃の わたしに戻って あなたに会いたい」も、単に恋しい人に会いたいだけじゃなくて、「あの頃の自分」で会いたいのがポイントだと思いました。今の自分で再会しても、同じ景色は見られない。時間が流れて、価値観も痛みも増えてしまったからこそ、“当時の自分”に戻れたら…という願いが出てくる。 私自身、昔の写真や当時よく聴いていた曲に触れると、過去の自分が一瞬だけ立ち上がるような感覚があります。でも同時に、そこへ完全には戻れない現実も分かっている。その矛盾が、この曲の「会いたい」をただの恋愛感情以上のものにしている気がします。 もし歌詞の意味を深掘りしたいなら、聴く時間帯をあえて“暮れかかる”頃にしてみるのもおすすめです。同じ言葉でも響き方が変わって、都会の空や風の描写が、自分の記憶と重なって見えてくると思います。














































