最近のすみに置けぬ奴。Part3。
かっくんの娘であるTちゃんにLINEのブロックをされた。
遺骨を分けてもらう約束だったのだけれど…。
かっくんの遺骨を分けてもらえたら、骨壷ペンダントに入れて彼の骨や思い出と共に旅行をするつもりだった。
かっくんがこよなく愛したお城や温泉地をめぐる旅をしようと思っていたのに。
辛い涙が溢れて止まらなかった。
落ち着きたくても煙草を切らしていた。
私にとっての煙草は嗜好品や贅沢品ではない。
DIDの他人格のアドレナリンやノルアドレナリンの過剰分泌を止めて落ち着かせるためにニコチンが効くのだ。
精神医学の知識が無い人間ほど、「精神安定剤でも処方してもらって…。」と軽々しく口にするが、殺意にまで達した脳内物質を処方薬で止めるのは不可能 だ。
手っ取り早くニコチンで血管を収縮させた方が早く怒りが収まる。
しかし、Tちゃんはかっくんと私が付き合いだした頃から私に対して敵意を剥き出しにしてきた。
かっくんが「新しく女ができた。」と、報告すると「婚姻届とかやめてよ!3人目のママとか絶対要らないから!妊娠も避けてよ!歳の離れた妹も要らないからね!」と。
二十歳超えているのの干渉の激しい娘だなあと思っていたら、かっくん自身が「大人の恋愛に娘がここまで口出しするか?」とぼやいていた。
初めてTちゃんと、妹のKちゃんがかっくんと同棲していた家に訪ねてきた時も、ずっとTちゃんが私を値踏みするような視線で頭の先から足の先まで舐めるように威嚇してきたので、不愉快に思った私はキッチンに逃げていたのだが、かっくんが「すみー?何しとるー?」と言うのでリビングに顔を出すと、Tちゃんが殺気のこもった目で睨むのでどうしようかな、と思っていると、かっくんがソファの自分の隣に座るように促した。
かっくんの側に行こうと歩を進めかけたら、Tちゃんは私を睥睨して言ったのだ。
「パパってブサ専だよね。」
私は「あなた、鏡で自分の顔を見た事はおありですか?」という言葉が喉から出かかって固まっていたが、かっくんは笑ってTちゃんに言い放った。
「あんた、自分の顔面偏差値は幾つやと思って言っとるんや?(笑)」
Tちゃんの顔が引き攣った。
かっくんは私に「すみは美人や…それより座らんの?」と手を差し伸べたので、私はその手を取って彼の隣に座ったけれど、Tちゃんはずっと「信じられん…。」と呟いていた。
次にTちゃんが同棲している家に来た時はちょうどかっくんとTちゃんの誕生日だったのでTちゃんの好物のチョコレートケーキを私のお気に入りのパティスリーで用意した。
Tちゃんは無言でケーキを食べかけてかっくんに「T助、食べる前には挨拶が要るよな?」と言われていたが、「いただきます」の一言もなく、グサッとケーキにフォークを刺して、胡桃を見つけて「ウエッ!」と言いながら嫌な顔をしてケーキから胡桃をほじり出す作業をした。
私が「ごめんね、胡桃が嫌いなんだね。」と声をかけるとジロリと睨んで「ああ。」とぶっきらぼうに答え、かっくんは「T助、嫌なら食わんでいいぞ。」と言ったけれど、Tちゃんは黙って胡桃だけを弾いてチョコレートケーキは完食した。
その次の訪問では「パパたちはいい歳をして格好が派手で恥ずかしい!もっと年相応の落ち着いた格好をしてくれないとうちが恥かくやん!」と言って、かっくんを怒らせた。
どういう娘かと思っていたけれど、私が骨折で手術入院してからもかっくんに散々酷い事を言って、かっくんは私にLINEや電話で愚痴をこぼしていた。
娘には威圧的なかっくんだったが私にはいつの間にか本音も弱音も出すようになっていたから。
最終的にはかっくんが激怒する事を言って、どちらともなく絶縁となった。
何故、Tちゃんはかっくんを貶したり、傷つけたりするんだろう。
ずっと疑問だったけれど、今回の私への仕打ちでそれは氷解した。
かっくんを、自分のパパを、ずっと自分のものにしていたかったんだ。
自分よりかっくんに愛されている私を許せなくて、遺骨や形見を渡すなんてもっての外なんだろうな。
かっくんが亡くなって怒られなくなったから、堂々と、嫉妬して憎悪した私に酷い事ができる。
でも、そんな性根の曲がった娘をもしかっくんが見たらなんて思って、なんて言うだろう。
ずっと寄り添ってきた内縁の妻に自分の遺骨すら渡さず、LINEをブロックする娘を。
かっくんは、愛さない。
「あんたは人が良すぎるんや。」
かっくんと相思相愛だった私は、頑固だけれど人の気持ちを無碍にする事が嫌いだった。
「まあ、そこがあんたのいい所なんやろうな。」
そう言って、かっくんは柔らかく笑っていたものだ。
Tちゃんには言っていないが、かっくんは倒れる日の昼には「もう、自分を取り巻くしがらみが嫌や。全部切ってあんたの家に転がり込んでいいすか。」と言っていた。
性格不細工のTちゃんは、既にかっくんから見放されていたのだ。
遺骨を渡さない意地悪をする娘は、かっくんの生前にもう捨てられていた。
勿論、LINEをブロックされているので、もうそれを伝える術は無い。
ただ、かっくんと全身全霊で愛し合った記憶だけが、誰にも共有されない私の財産になりそうだ。








