夜10時過ぎ、動画の学校の受講生Aさんから着信があった。声が震えている。「送出センターのIP化工事が終わって、今日が最初の本番だったんです。5.1chの音声、ずっとDolby Eで問題なく流してきたのに、切り替えた瞬間にノイズになって……配線は全部合ってるんです。レベルメーターも動いてます。なのに、音楽じゃなくてザラついた音しか出てこないんです」。
私はまず聞いた。「新しいIPエンコーダーは、どの規格に対応していますか」。Aさんが機材のスペックシートを読み上げた瞬間、答えは出ていた。非圧縮PCM専用の規格だった。Dolby Eは音声とメタデータを圧縮して1本のストリームに収める符号化データだ。PCM専用の規格にとっては、意味の分からない数値の羅列でしかない。だから律儀にPCMとして読み上げようとして、結果がノイズになる。故障でも設定ミスでもない。規格そのものが「運べる中身」を選んでいるだけだった。
「機材を入れ替える必要はありません。ST 2110-31という、中身を読まずにそのまま届ける規格があります。符号化データを扱う経路だけ、そこに絞って更新しましょう」。電話口のAさんの声が、少しずつ落ち着いていくのが分かった。翌朝届いたメッセージには、たった一言があった。「きれいに戻りました。原因が分かっただけで、こんなに安心するんですね」。
音は正しい箱に入れて初めて、正しく届く。それを知っているかどうかが、本番の明暗を静かに分けている。Aさんは今、新しい機材を選ぶときに真っ先に「これは何を運ぶ前提の規格か」を確認するようになったという。夜の電話一本が、現場の習慣そのものを変えた。
音声はPCMだけじゃない IP化した瞬間、5.1chの音声がノイズになった
https://note.com/videolife/n/n95c203438195












